2009年9月22日火曜日

Little Essay 058「満天の星空」





学生時代ボクは星ばかり眺めていた

将来は天文学者になりたくて

いつもいつも星ばかり眺めていたんだ


中学 高校と天文部の部長を務め

チャンスを作るとすぐ合宿をしていた


10数名の部員がいたが

望遠鏡は部員のを入れても3台だけ

観測と言える程の事は出来なかったが

重い望遠鏡を抱えて

光のない観測地を選んで出かけていった


深夜のゴルフ場に忍び込んだり

奥多摩の山奥に侵入した事もある

静岡や九十九里浜にも行った


せっかく出かけても

雨が降るとどうしようもない…

すべての計画が水の泡になってしまう

そんな経験も沢山してきた


反面 満天の星空に出会うと

感動と幻想が体を突き抜けていく


月明りで本が読めるのは知っていたが

星明りでも十分に本が読める事を知った時には

自然の偉大さに泣きたくなったんだ…



地面に大の字に寝転がって空を仰ぐと

星の重さで体がブルブル震えてくる

手を動かそうとしても

満天の星に押し付けられているようで動かない 

金縛りではなく まるで星縛りだ

それだけ本物の自然は大きかった



天文学者の夢が消えて行ったのは

大学に入ってからだった

全く畑違いを専攻してしまったボクは

薄らいで行く過去の夢に

少なからず寂しさを感じていたのかも知れない

でもそれに歯止めをかけられなかった


今でもきれいな星空に出会うと

思い出の隅に小さな<後悔>が見えかくれする




でも そんなボクに星達は


<それで良かったんだよ>と


優しく語りかけてくれる



Little Essay by Yasutomo Honna




2009年9月21日月曜日

Little Essay 057「懐かしい話 」





初めて女性とデートをしたのは

中学3年の時だった…


ある受験専門学校に通っていたボクは

同クラスの女の子から

生まれて初めてのラブレターをもらった


当然初めての経験なので

きちんと返事を書いたのだが

その時からボクと彼女は

授業を3回に1回さぼる事になる



初めてのデートは神宮だった

イチョウ並木に

いつも秋になると

TBSラジオ主催のイベントで

祭りが開催させれ 出店が並んでいた


あまりお金を持っていなかったから

アイスクリームをかじる位が

精一杯だったんだ…

でも そんな事よりも

一緒にいられる時間が何よりも楽しかった


でも授業をさぼり 

何度かのデートの頃

専門学校からお互いの親に連絡が入ってしまう

当然受験ゼミだったから

ボクと彼女は

<手紙>と言う手段でしか

会えなくなってしまったんだ


その後 百通近く手紙の交換をしていたが

会えないと言うのは 

何かを確認し辛くなること…

いつしか手紙の数が

めっきり少なくなってしまった




ボクも彼女も希望高校に入学出来たが

その頃お互い最後の手紙を考えていた



彼女の最後の手紙は

「どうもありがとう」だった


そしてボクの最後の手紙は

<イチョウの押し花>にした…



Little Essay by Yssutomo Honna




2009年9月17日木曜日

Little Essay 056「白熱の試合展開 」






二つのグループは張り合っていた


一つのグループが歌うと

もう一つのグループは

それ以上に威勢のいい歌を歌った

そうなると

もう一つのグループも黙ってはいない

メンバー総勢での大合唱となってしまった


そんな繰り返しを見ながら

ボクはカウンターで一人ウィスキーを飲んでいた


大合唱が終わると

もう一つのグループは

大合唱プラス手拍子で責めてきた

こうなるともう手がつけられなくなる

しかしこれがプロ野球 巨人VS阪神のような

応援合戦に見えてくるから面白い



ボクは3杯目の水割りを注文して

その白熱の試合展開を眺めていた



グループの監督の様な まさにリーダー格が

歌詞本を眺めている次のバッターに

サインを送っている

<次はヒットエンドラン>

ボクは監督のサインを見抜いた


曲が始まる

スローバラードから

いきなり叫び歌いだす曲だ

相手のグループは一瞬たじろいだが

次の攻撃のチャンスを待っていた


ところが

こちらの監督の方が上手だった

今回の攻撃は<時間差攻撃>だった

すでにリクエストカードは

カウンターに2枚手渡されていたのだ


曲が終わり次の曲も

実はこちらのチームだった

向こうのベンチに控える監督は

<してやられた!>と言う顔だった



そんな風景を見ながらボクは

番狂わせの<昴>を歌おうと

ひそかにリクエストカードを書いていた




Little Essay by Yasutomo Honna



今迄のエッセイもそうですが

上記文章も遠い昔の作品です。

昔カラオケは、リクエストカードを書いて、

お店の店員に渡していたのでした。

デジタル時代の若い人には、

きっと分からないだろうなぁ~。

しっかし、私も古いなぁ~。

誰か一緒に、カラオケ行きませんか?




2009年9月9日水曜日

Little Essay 055「湖のほとりのブランコ 」





その湖のほとりの 小さな空き地に

忘れ去られたようなブランコが

ひとつだけ ぽつんとあった

その空間は確かにサビついていた


「こうして湖に向かって

 ブランコをこいでいると

 何か二人 不思議な世界にいるようね


キミはボクとのデートに

いつもここをリクエストした

そして ブランコをこぎながら

決まりきったようにそう言った


誰もいない 静かな空間に

<キーコ キーコ キーコ> と

サビついたブランコの音だけが

静かに鳴り響いていた


で ボクはいつもそんなキミを見ながら

タバコを吸って時間をつぶす


「このブランコは

 いつまでここにあるのかしら?」

 キーコ キーコと言う音が止まると

 キミはボクに聞いてきた


「きっとキミが

 デートコースを変えないうちは

 残ってるだろうね」


ボクはそう答えて笑った


「そっかぁ 

 じゃいつまでも残ってるわねあははっ」


そしてまた再び キーコ キーコ




その後 キミはボクと違う男性と結婚した

キチンとした

お互いの理由があった訳でもないのだが

<長い時間>という歪みが

その原因だったのかもしれない

そして それは突然に訪れた




それからしばらくして

湖のほとりの小さな空き地は整備され

きれいな緑の公園になってしまった

当然あのブランコも消え

サビついた思い出もなくなってしまった



Little Essay by Yasutomo Honna



2009年9月4日金曜日

Little Essay 054「秘密の花園 」






その部屋へ案内された時

扉の前から甘い香りがしていた

どうにも懐かしいような

どうにも心躍るような そんな香りだ


キミとは偶然な出会いだった

ある会合で出会っただけの関係なのだが

妙に息が合ってしまった


その後 誘われるがまま

キミのお気に入りの喫茶店でお茶をしたのだが

その時にキミから勧められた

フレッシュハーブティがあまりにも鮮烈だった


「ペパーミント・スペアミント

 レモングラス・レモバーム

 これがフレッシュハーブティの定番です

 覚えておいてね 強めのケーキにも合うのよ



そう言って

ティカップにハーブティを注いでくれた

キミの指先がどうにも悩ましかった




それからボクらは頻繁に逢うことになる

そして今日

キミはボクを…

秘密の花園に招待してくれたんだ


秘密の花園… 

という表現はボクが勝手に決めたものだが

それだけに期待感が大きく高まってゆく


その部屋へ案内された時

扉の前から甘い香りがしていた


扉の向こうは キミの素敵な世界


男にはDENという隠れ家があるのだが

キミにはこの秘密の部屋があったのだね



甘い香りのする部屋

バニラや キャラメルや 

チョコレートや フルーツの香りが漂う


「どうぞ そこにお座りになって

 今 お茶を入れますから


キミはそう言って

キミの秘密の花園 素敵なキッチンに立った


お菓子道具が並ぶ

ここはキミの仕事場なのか?

それにしても センスがいい


「ここは私の大切なアトリエなんです

 大切な方しか お招きしないんです

 味見してくれますか? 

 自信は無いのだけれど



そう言って キミが差し出したのは

手作りのザッハトルテ 

そして甘くない生クリーム

加えて キミが庭で育てた 

採れたてハーブティ


ボクはその感動を 何度も確かめながら

急にキミを誰にも渡したくなくなってきた




「もう一杯ハーブティいただけますか?」

ボクはテーブルに座るキミに聞いた…


「庭のハーブが枯れるまでどうぞ…」



ボクはキミの秘密の花園で

一生キミと共に暮らしてもいいと感じていた…



Little Essay by Yasutomo Honna



2009年9月2日水曜日

Little Essay 053「ある夜の会話 」






君が急に無口になってしまったのは

きっとボクが原因なんだろう


いつも帰りが遅いし

会合と言う名の飲み会も増えている

共通の趣味を持たないで今日まできているし

<信じる>と言う言葉の軽さも知っている


<行ってくるよ> <行ってらっしゃい>

<ただいま> <おかえりなさい>

そんな日常的な会話だけが

唯一二人をつなぎ止める言葉となってしまった


テレビに向かっている時

本当は君の好きな裏番組が

とっくに始まっているのを知っている


でも

ボクは今日の野球の経過が

リアルタイムで知りたかった


仕事を終えてのビールを飲み干す

最後の一杯が瓶から注がれた時

本当はもう一本位は

冷蔵庫に冷やしておいてほしかった


でも きっとそれらは

お互いの<わがまま>なのかも知れない


今度の日曜日は久々に休暇をとって

君と恋人時代よく行った

あの高原の牧場に行ってみようと思う

もしかすると忘れてしまった

<大切な会話>を取り戻せるかも知れない


「今度の日曜は 牧場に行こうか?」


ボクは風呂上がりのビールを楽しみながら

何気なく君に聞いた



君は何も答えず台所に行き

自分のビールグラスを持って来ると

ボクの前に突き出した


<トクトクトク……>


「いい提案ね! じゃ乾杯! 

 そのプラン好きだわ!」

君はちょっと笑顔を取り戻し 

ビールを一気に飲んだ


少しづつだが

ボクらは<前向き>に歩きはじめた気がする



Little Essay by Yasutomo Honna