2009年9月4日金曜日

Little Essay 054「秘密の花園 」






その部屋へ案内された時

扉の前から甘い香りがしていた

どうにも懐かしいような

どうにも心躍るような そんな香りだ


キミとは偶然な出会いだった

ある会合で出会っただけの関係なのだが

妙に息が合ってしまった


その後 誘われるがまま

キミのお気に入りの喫茶店でお茶をしたのだが

その時にキミから勧められた

フレッシュハーブティがあまりにも鮮烈だった


「ペパーミント・スペアミント

 レモングラス・レモバーム

 これがフレッシュハーブティの定番です

 覚えておいてね 強めのケーキにも合うのよ



そう言って

ティカップにハーブティを注いでくれた

キミの指先がどうにも悩ましかった




それからボクらは頻繁に逢うことになる

そして今日

キミはボクを…

秘密の花園に招待してくれたんだ


秘密の花園… 

という表現はボクが勝手に決めたものだが

それだけに期待感が大きく高まってゆく


その部屋へ案内された時

扉の前から甘い香りがしていた


扉の向こうは キミの素敵な世界


男にはDENという隠れ家があるのだが

キミにはこの秘密の部屋があったのだね



甘い香りのする部屋

バニラや キャラメルや 

チョコレートや フルーツの香りが漂う


「どうぞ そこにお座りになって

 今 お茶を入れますから


キミはそう言って

キミの秘密の花園 素敵なキッチンに立った


お菓子道具が並ぶ

ここはキミの仕事場なのか?

それにしても センスがいい


「ここは私の大切なアトリエなんです

 大切な方しか お招きしないんです

 味見してくれますか? 

 自信は無いのだけれど



そう言って キミが差し出したのは

手作りのザッハトルテ 

そして甘くない生クリーム

加えて キミが庭で育てた 

採れたてハーブティ


ボクはその感動を 何度も確かめながら

急にキミを誰にも渡したくなくなってきた




「もう一杯ハーブティいただけますか?」

ボクはテーブルに座るキミに聞いた…


「庭のハーブが枯れるまでどうぞ…」



ボクはキミの秘密の花園で

一生キミと共に暮らしてもいいと感じていた…



Little Essay by Yasutomo Honna



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