2009年8月29日土曜日
Little Essay 052「ケータイ一斉メール 」
2009年8月24日月曜日
Little Essay 051「紙コップ 」
「コカコーラの紙コップの 再利用法って知ってる?」
彼女は飲み干した紙コップを
眺めながら聞いた
「ゴミ箱にポイッ 使い物にはならないなぁ」
ボクも最後に残った コーラを飲み干した
大学内のグランドに面した
コンクリート広場で
ボクと彼女はクラブ活動の
ラグビーを見ながら喋っていた…
「ふーん あなたはただ
ゴミ箱に捨てるだけなの?」
彼女はそう聞き返した
「そうさ… それとも
家に持ち帰るとでも言うのかい?」
ボクは彼女の質問に少し疲れてしまった
「ふふっ 最後にもう一仕事してもらうのよ…
スカッ!と爽やかになる様にね…!」
そう言って彼女は
コーラの紙コップを持ちながら立ち上がった
平らなコンクリートに
紙コップを逆さに置くと彼女は言った
「紙コップを逆さにして地面に置く
そして祈るの…
<もう一度爽やかにして下さい>ってね 」
そう言い終わるかと同時に
彼女は紙コップを その白いスニーカーで
思いっきり踏みつぶした…
<スパーーーン>
コーラの紙コップは
まるで風船が割れるかの様に
きれいな音を出して砕けた…
ラグビー選手達はその音に
不思議な顔をして振り返った
「ねっ!スカッ!と爽やかでしょ?」
彼女は肩をすぼめ ちょっと舌をだして笑った
ボクは紙コップの 最後の大仕事をじっと見つめ
<可愛そうな奴> と真剣に思ってしまった…
Little Essay by Yasutomo Honna
2009年8月22日土曜日
Little Essay 050「僕の愛がさめるまで 」
君を乗せた 僕の車は
潮風に濡れながら走るよ
海が見たいと言った君は
少しうつむき加減に黙ったまま
そうだね 君と初めて見た海
ちょうど去年の 今頃だったね
寄せて返す波に 想い出を託して
流してしまっても 君は黙ったまま
何も言わなくていいよ
今の君にはそれが
最後の僕への 優しさになるから…
ただ少しの間だけ
海を見ていておくれ
僕の愛が さめるまで…
あまりに都会に 慣れすぎていたから
お互い海が 恋しかったんだね
君は砂に僕の名前を
書いては消えて行くのを 黙って見ていた
何も言わなくていいよ
みんな分っているさ
今度の人が 君の最後のひと…
ただ少しの間だけ
海を見ていておくれ
僕の愛が さめるまで…
何も言わなくていいよ
今の君にはそれが
最後の僕への 優しさになるから…
ただ少しの間だけ
海を見ていておくれ
僕の愛が さめるまで
僕の涙が 乾くまで…
Little Essay by Yasutomo Honna
2009年8月20日木曜日
Little Essay 049「知らない町の風」
駅のキオスクで
ウイスキーのポケット瓶と
単行本を一冊買った
昔のサントリーの広告を真似てみたくなって
知らない町行き 各駅停車の切符も買った
昼間の各駅は案の定 空いていたし
前の席に足を十分伸ばせた…
単行本はキオスクで
一番最初に目をつけた本だった
名前すら聞いた事のない作家の
21世紀に日本はどうなる…
そんな本だ
電車が走りはじめる
さすがに揺れるが 決して悪い気はしない
いや 程よく揺れてくれなければ
実際列車に乗った意味すらないのだ
ポケット瓶のネックにかぶさっていた
小さな透明プラスティックカップに
ウイスキーを零さぬよう注ぐ
ウイスキー瓶が カッブにカチカチと触れ
そしてカップの中で 琥珀色の液体が揺れる
程よく注がれたそれを目の前にかざし
琥珀色の液体越しに見える
流れる風景に乾杯をした…
不確実ではあるが…
左手には
21世紀の日本の将来を占う単行本
右手には
未来をぼやかし 心まで酔わす液体を手にし…
ボクの頭脳は
これからたどり着くであろう
知らない町の風を見抜こうとしていた…
Little Essay by Yasutomo Honna
Little Essay 048「キール」
「君もボクも大人になったな」
ボクはテーブルの向こうにいる彼女に言った
「3年も会っていなかったんですもの…」
彼女はボクが頼んだキールを飲みながら答えた
「そのキールはカシスと白ワインを…」
と言いかけてボクはやめた
所詮そんなことは
今話題にしなくてもいい事だから…
「知ってるけど…続けて…」彼女は言った
「いや 大した話じゃないんだ…」
ボクはそう言って3年間の時の流れを
何度も繰り返していた
「あなたは この数年 何してたの?」
彼女はキールに口をつけ ボクの顔を覗き込んだ
「キミのことばかり考えていた…」
「嘘ばっかり…」
クスッと笑って 彼女は再びキールを飲み
「トイレにいる時も? 他の女性を抱く時も?」
「そうだよ…」
ボクは氷が溶けたスコッチを口に運んで続けた
「ふ〜ん そうなんだ…
で…何人の女と寝たの?」
僅かに残ったキールの一口が消えた…
「シャンパンのような素敵な女はいなかったな…
だから いつも白ワインで我慢していた…」
「じゃ ロワイヤルはご無沙汰なのね…」
そう言って彼女はバーテンに
「次は キールロワイヤルにして…」
と続けた…
Little Essay by Yasutomo Honna
2009年8月17日月曜日
Little Essay 047「缶ビール」
砂浜に寝ころがって
真夏の太陽を浴びていた
足元3m位に
広く世界につながる海がある
ザザーッ ザッ ザザーッ
風に身をまかせながら
タイミングの狂う波の音を聞いていると
まるで生き物のようにさえ感じられる
目をつむりながら
手探りでクーラーボックスを捜す
日差しがチクチクと肌をさす
クーラーボックスにはキンキンに冷えた
缶ビールがぎっしり詰まっているし
このロケーションには
缶ビール以外の何ものも似合わない
<ブシュッ> プルタップを引き上げる
身を起こし
広い海を眺めながら
冷えた そして 日差しにも負けない活力の
爽やかな液体を喉に流し込む
ほてった皮膚の裏側に
平行してその液体が流れていく
しばし 海と 水平線と 空を見つめ
再び砂浜に寝ころがる
缶ビールを持った手を空に伸ばすと
あれほど強かった日差しの太陽が
チラチラと缶の陰に見えかくれしていた
Little Essay by Yasutomo Honna
2009年8月16日日曜日
Little Essay 046「別れるということ」
「シュワーーーッチ!」と背後から
ウルトラマンを真似てみせて
彼女を驚かせてみた…
そんなボクに
スペシューム光線をあびせかけて
驚きを隠そうと必死になっていた彼女…
そんな風景を思いだしながら
テーブルの上の写真立てを眺めている…
もうずいぶん前に写した写真だけど
二人の一番素敵な頃の写真だった
この写真立てを段ボールに入れると
全ての引越しの準備が終わる
そしてこの思い出の部屋ともお別れ…
いつか戻って来てくれるかも知れない
そう思い続けて2年経ってしまった
手紙も電話もない
ある日突然 彼女はボクの前から姿を消した
「別れるってどういう事なのかしらねぇ?」
笑いながら彼女は言った
「うーん 二度と会わないって事かな?」
ボクは何気なく答えた…
そんな懐かしい会話を思い出しながら
ボクはアパートに最後の鍵をかけた…
Little Essay by Yasutomo Honna