2009年6月30日火曜日

Little Essay 0009 「国分寺」遠い昔の話






国分寺はボク達のたまり場だった
大学が終わるとよく酒を飲みに出かけた

当然金がなかったから
高い酒なんか飲めなかったし
また飲んだところでもったいなくて酔えなかった

国分寺は学生が多かったから
安い店がすぐ見つかった
千円あれば酔えたし いや千円以上は払えなかった
ボトルキープは決って割り勘

共同出資仲間の許可がなければ
そのボトルは一人で飲めなかったし
店のオヤジも知っててか 
ボトルを出してくれなかったっけ

懐かしい思い出 
今でも変わらず元気な町だろうか

国分寺 ボク達の青春の町…


Little Essay  by  Yasutomo Honna


2009年6月29日月曜日

Little Essay 0008 「LEMON」




郵便ポストを覗くと 一枚ハガキが届いていた

遠い昔少しの間だけ付き合った事がある女性からだった

それはお茶の水の「LEMON」と言う画材店と喫茶の

オリジナル絵ハガキだった


「LEMON」の店名は 実際は漢字なのだが

記憶の底をたどってみたが とうとう思い出せなかった

それだけ時間が流れていた…



「あなたとよくお茶を飲んだ<LEMON>の窓辺で

 この手紙を書いています

 丸の内線をお茶の水で降りて

 懐かしいコースを

 一人で歩いてみました…
 
 湯島天神 ニコライ堂 あなたが好きだった楽器屋も

 ちょっと覗いて見ました

 最後にこの店です

 画材コーナーにきれいな絵ハガキがあったので

 ふっ… と手紙を差し上げたくなりました


 ただの気まぐれな手紙です

 気になさらないでください」


そう書かれた手紙には 彼女の名前だけで…

住所が見あたらなかった




Little Essay  by  Yasutomo Honna


Little Essay 0007 「ハワイの風景」





ボクはハワイにあるアラモアナショッピングパークで

少し大きめのストロベリー缶ジュースを買った

自動販売機に50セントコインを一枚入れ

それを手にしたボクは心なしか爽やかになった…


缶のデザインはハワイの青い空にピッタリの

鮮やかなストロベリーカラーだ

プルタップを引き上げ

そのよく冷えた缶を口に運ぶ

ハワイのやさしい味が喉を伝わってくる

ボクは何気なくその缶にもう一度目を運んだ



「Made in Japan」…



ボクはしばしハワイの青い空を見上げ

流れ出す涙を どう止めていいか考えていた…


Little Essay  by  Yasutomo Honna


2009年6月28日日曜日

Little Essay 0006 「これが最後の夏祭り」







遠くにこの夏最後の

盆踊りの太鼓の音が聞こえている

静かに耳をすませば

子供達のはしゃぐ声も聞こえてきそうだ


部屋の電気を消して

冷蔵庫からビールを取り出す

コップは そう…. 縁日の様に紙コップがいい

何杯も何杯もビールを注いでいると

フニャフニャになってくる紙コップ

それを手の中で変形させて遊んでみる


窓から見える暑い暑い空に

1等星の星だけが チラチラ輝いているが

星座の形を思い出せない

そんな暑い夏の夜…



本当ならボクの側には 

浴衣を着た君が 座っているはずだった

そして うちわが静かに風を切っているはずだった

数年続いたそんなボクと君の歴史は

今年の夏を待たないうちに消えてしまった

原因なんてない

まして 心変わりでもない

ただ 一緒にいる時間が長かっただけ…



遠くにこの夏最後の盆踊りの太鼓の音が聞こえている

そしてボクは星座の形を思い出せない




Little Essay by Yasutomo Honna

Little Essay 0005 「遠い昔のバレンタイン」





今年もバレンタインがきました

遠い昔は その日が来ることを
心待ちにしていた自分がありましたが
今は ただ一つのイベントとして 
通り過ぎていくだけなのですね

いや それだけ時間が流れていった
ということなのでしょう

お陰さまで この年齢になるまで
人並みにそのイベントの恩恵を受けましたが…

例えば 突然もらうチョコレート
大変なインパクトがあるのですが
私の人生の中では
「突然のチョコレート」に遭遇したことは…
コホン… うむ あの一回だけです

しかし それは難しい選択でした

あの日 突然手渡されたチョコレート
しかし 私はそれを素直に喜べなかったのです
ごめんなさい というしかなかったのです…


今まで きっと何気なく話をしていただろう
その送り主と…
その日以来 話ができなくなりました
一線を越えたお付き合いをする相手ではなかった…
残念ながらそうでした

バレンタインを迎える度に
あの日を思い出します

ごめんなさい…  と言うしかなかった

この年齢になると いろいろとありますが
遠い昔の想い出です

君は今どうしているのでしょうか…

バレンタイン
チョコレートの祭典と化したそのイベントは
今年も静かに そして盛大に過ぎて行きました

私と同じ突然の遭遇に 良きも悪しきも
きっと今年も 様々なドラマがあったのでしょう


たくさんの 出会いや 別れたちに カンパイ…


Little Essay by Yasutomo Honna



2009年6月27日土曜日

Little Essay 0004 「白い煙」


ついさっき Kiosk で買ってきた使い捨てライターは

火の出方がとても悪かった

気づいた時に 既にボクは 

北国行きの列車 扉の閉まる数十秒前

冷えきった車内の中だった


ライターを手で覆いながら

必死でタバコに火をつけようと頑張ってみたのだが 

かなり無理があるようだ

ポケットをゴソゴソと捜してみたが

出てきたのはティッシュペーパーと 少しだけの小銭

そしてキミとよく行ったBARのレシートだけだった

しかたなく火のついていないタバコをくわえて

扉の外をしばらく見つめていた


大きく吹い込んだ息は

冷え込んだ車内から

君と過ごした さらに冷え込んだこのマチに 

白い煙となって 静かに消えていった…



Little Essay  by Yasutomo Honna

Little Essay 0003 「再会」



昔別れた女性と ある居酒屋で偶然会った

いや 会ってしまったが正しい

ボクは目をそむけたけれど

彼女はビールを持ってボクの席までやって来た

「お元気そうですね ビールでも飲みませんか?」

ビールを差し出す彼女の薬指には

まだリングがなかった

「一杯だけもらおうか…」

そう言ってボクはグラスを持ち上げた


ビールを注ぐ彼女の後ろのテーブルで

帰りを待つ彼の顔がちらついていた…



Little Essay by Yasutomo Honna



リトルエッセイとは…





本名康友のリトルエッセイ。
実は、これは以前アメーバブログを使い匿名で約2年近く
にわたり書き続けてきたものです。

これらは…とても小さな話です。 
フィクション・ノンフィクション、それが事実であれ、
空想であれ、ある一瞬を楽しんで切り抜いて書きこんで
います。

何人もの方々から、これは事実に基づいたの話なのです
か?そんなに恋愛経験が豊富なのですか?
などという質問を受けることが多いのですが…

基本的に、これが事実なのか、空想なのかは読者の皆様
の判断にお任せするものとします。
ただし、正直な話、これから書き綴っていくリトルエッ
セイが全て本当の話でしたら、私の身体はいくつあって
も保ちませんし、私は事実こんなプレイボーイではない。

ただし、全てが空想ではないのは確かであり、当然なが
ら現実に基づいて書いていたり、本当のエッセイであっ
たりと…。まぁ、そんなことはどうでも良いのであり、
リトルエッセイの始まりです。

以前書きためたものもアップしていきます。私がまだ若
かった頃の作品も登場します。
つたない文章も多々あると思いますが、それはご愛嬌…。

今宵、素敵な音楽と、美味しいお酒とで
ぜひごゆっくりお楽しみください。


Little Essay by Yasutomo Honna

2009年6月24日水曜日

Little Essay 0002 「感動という忘れ物…」






ビジネスで訪れた香港の早朝
前日深夜まで飲み続けた重い頭を抱えながら
ネーザンストリートを歩いていた

香港は公共施設の中のみならず 飲食店全てが禁煙
ただし 何故か路上では喫煙が許されていて
路上のあちこちに吸い殻入れが完備されている

ボクはストリートを歩きながら
路上でタバコを吹かし 
交差点ごとに設置されている吸い殻入れに灰を落とす

当然このマチではありふれた光景だから
誰もそれを咎める人はないなし
言わば 喫煙者たちに残された空間はここだけなのだ


午前7時 早朝だから人通りは少ない

ボクは 裏通りにあるマクドナルドで
モーニングコーヒーを飲もうと 目的地へ急いでいた

すると ストリートサイドから 女の子が飛び出してきて
ボクに新聞を渡そうとする

「Free Paper?」と聞くと
「Yes…」

ボクはその新聞を手に取って 
思わずその場にしばらく立ちすくんでしまった…

何故なら
その新聞には 一つ一つリボンが結ばれていたから

日本で言えば ご自由にお持ちください…
と言ったたぐいの代物なのだろうが
その新聞の 何とも渋いエンジ色のリボンとタグ

この素晴らしきセンスの良さは何なのか?
そして これほどのコストをかけた新聞とは何なのか…

当然ながら それらは広告収入という価値観で
確かに成り立っているのであろうが
それにしても このハイクオリティな演出に
ボク自身 相当のショックを覚えてしまった

日本において 当然の如く
装飾としてのリボンを使い続けてきたのだが
これほどまでに 感動を受けた
そう あえて パッケージと言おう
この体験は ボクに大きな刺激を与えてくれた




マクドナルドに入ったボクは
モーニングコーヒー飲みつつ
ふと 日本にいる彼女のことを思い出した


帰国したら 何かプレゼントをしてあげよう…

ありきたりではなくて
決して高価なものでなくていい

不思議なリボンという 新しい可能性を知ったボクは
遠い昔に落としてしまった 感動という忘れ物を
香港の街角で見つけたのだ…


彼女は その時 はたして 喜ぶのだろうか…



Little Essay by Yasutomo Honna

2009年6月22日月曜日

Little Essay 0001 「そういえば…こんなことがあった」


Little Essay 0001

■そういえば…そんなことがあった



年齢がある大台にのった いや のってしまった時に
ふと思い出したことがある…

この大台というラインを遠い昔に 
何気なく想像していた時のことだ

そう それは 地方都市で働いていた時のこと
そういえば…そんなことがあった

いつも通いなれた 小さな洒落たバーのカウンターで
バーマスと 静かに語り合っていた時

「今日は客が少ないね…」ボクは静かに彼に聞いた

「こんな日も たまにはありますよ」…
グラスを拭きながら彼はこたえる

「この店で一番古いウイスキーは何?」
続けてボクは聞いた

「1940年代のマッカランですかね… 
私のコレクションですが
きっと死ぬまで 飲めそうもないですよ…」 
手の中のグラスが キュッと鳴った

今から20年以上前の話だが 
今考えても その酒は
当時でも50年近くは経過していたのだ…

「飲むことはあるの?」

「いや 飲みたい気持ちはありますが 
いつ飲むかはわかりません…
死ぬまでに は 飲みたいと思いますが… 
現実 何時死ぬかが 解らない…」

そう言って 彼は空を見つめた

その時ボクは 自分がどんな年齢を重ねていくのだろうと
その小さなカウンターで 
バーマスを静かに見つめながら考えていた

10年後 20年後 そして大台にのった時
自分は どんな人生を過ごしているのだろうか? 
と夢巡らしていた

夢はあまりに朧げで そして非現実的だったから
静かに現実に引き戻されたが…
その日飲んだ安酒は 確かに前頭葉の毛細血管まで浸透し
ボクをしばらくの間 想像の世界で遊ばせてくれていた

そして 今 ボクは大台を確かにクリアして…
今度は 遠い昔を懐かしむ瞬間と
遠い未来を想像する… その狭間にいる

その両方を 静かに交差させる瞬間は
どんな旨いつまみよりも 優れている

また 今夜も 深酒をしそうだ…


Little Essay by Yasutomo Honna