2009年9月2日水曜日

Little Essay 053「ある夜の会話 」






君が急に無口になってしまったのは

きっとボクが原因なんだろう


いつも帰りが遅いし

会合と言う名の飲み会も増えている

共通の趣味を持たないで今日まできているし

<信じる>と言う言葉の軽さも知っている


<行ってくるよ> <行ってらっしゃい>

<ただいま> <おかえりなさい>

そんな日常的な会話だけが

唯一二人をつなぎ止める言葉となってしまった


テレビに向かっている時

本当は君の好きな裏番組が

とっくに始まっているのを知っている


でも

ボクは今日の野球の経過が

リアルタイムで知りたかった


仕事を終えてのビールを飲み干す

最後の一杯が瓶から注がれた時

本当はもう一本位は

冷蔵庫に冷やしておいてほしかった


でも きっとそれらは

お互いの<わがまま>なのかも知れない


今度の日曜日は久々に休暇をとって

君と恋人時代よく行った

あの高原の牧場に行ってみようと思う

もしかすると忘れてしまった

<大切な会話>を取り戻せるかも知れない


「今度の日曜は 牧場に行こうか?」


ボクは風呂上がりのビールを楽しみながら

何気なく君に聞いた



君は何も答えず台所に行き

自分のビールグラスを持って来ると

ボクの前に突き出した


<トクトクトク……>


「いい提案ね! じゃ乾杯! 

 そのプラン好きだわ!」

君はちょっと笑顔を取り戻し 

ビールを一気に飲んだ


少しづつだが

ボクらは<前向き>に歩きはじめた気がする



Little Essay by Yasutomo Honna




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