2009年9月9日水曜日

Little Essay 055「湖のほとりのブランコ 」





その湖のほとりの 小さな空き地に

忘れ去られたようなブランコが

ひとつだけ ぽつんとあった

その空間は確かにサビついていた


「こうして湖に向かって

 ブランコをこいでいると

 何か二人 不思議な世界にいるようね


キミはボクとのデートに

いつもここをリクエストした

そして ブランコをこぎながら

決まりきったようにそう言った


誰もいない 静かな空間に

<キーコ キーコ キーコ> と

サビついたブランコの音だけが

静かに鳴り響いていた


で ボクはいつもそんなキミを見ながら

タバコを吸って時間をつぶす


「このブランコは

 いつまでここにあるのかしら?」

 キーコ キーコと言う音が止まると

 キミはボクに聞いてきた


「きっとキミが

 デートコースを変えないうちは

 残ってるだろうね」


ボクはそう答えて笑った


「そっかぁ 

 じゃいつまでも残ってるわねあははっ」


そしてまた再び キーコ キーコ




その後 キミはボクと違う男性と結婚した

キチンとした

お互いの理由があった訳でもないのだが

<長い時間>という歪みが

その原因だったのかもしれない

そして それは突然に訪れた




それからしばらくして

湖のほとりの小さな空き地は整備され

きれいな緑の公園になってしまった

当然あのブランコも消え

サビついた思い出もなくなってしまった



Little Essay by Yasutomo Honna



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