2009年8月20日木曜日

Little Essay 048「キール」



「君もボクも大人になったな」

ボクはテーブルの向こうにいる彼女に言った


「3年も会っていなかったんですもの

彼女はボクが頼んだキールを飲みながら答えた


「そのキールはカシスと白ワインを

と言いかけてボクはやめた

所詮そんなことは

今話題にしなくてもいい事だから…


「知ってるけど…続けて」彼女は言った

「いや 大した話じゃないんだ…」


ボクはそう言って3年間の時の流れを

何度も繰り返していた



「あなたは この数年 何してたの?」

彼女はキールに口をつけ ボクの顔を覗き込んだ


「キミのことばかり考えていた…」


「嘘ばっかり…」

クスッと笑って 彼女は再びキールを飲み


「トイレにいる時も? 他の女性を抱く時も?」


「そうだよ…」

ボクは氷が溶けたスコッチを口に運んで続けた


「ふ〜ん そうなんだ…

 で…何人の女と寝たの?」

僅かに残ったキールの一口が消えた…


「シャンパンのような素敵な女はいなかったな…

 だから いつも白ワインで我慢していた…」


「じゃ ロワイヤルはご無沙汰なのね…」

そう言って彼女はバーテンに

「次は キールロワイヤルにして…」

と続けた…



Little Essay by Yasutomo Honna






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