その電車にいつも君は乗っていた
毎朝 必ず決まった時間に
そう…決まった車両に乗っていた
ボクがたまたま早起きして
一本早い電車に乗ったのが
君を見つけたきっかけだった
次の日もボクは早起きして
その電車に乗ったんだ…
そしたら やはり君はその車両にいた
いつも君は窓の外を見つめていたけれど
何を見ていたんだろう?
君の視点に合わせて
ボクも一緒に外を見たのだが
移り行く景色以外は
変わらぬいつもの風景だった
ボクは毎日10cmづつ
君に近づいていったんだ
最初は5m位離れていたけど
最後には目と鼻の先までになっていた
でも君はこれだけ毎日顔を合わせているのに
ぜんぜんボクに気づく様子もない…
<そんなもんだね>
いつもボクはそう自分に言い聞かせていた
君が降りる駅は
今まであまり 気にもとめていない駅だった
<君はどんな仕事をしていてるの>
いつもボクは降りていく君の後ろ姿に呟いた…
ある朝 君は一冊の雑誌を
食い入る様に見ていたね
目と鼻の先のボクは そっと覗き込んでみたら
就職情報誌だった
<転職するのか?>
ボクはまた降りていく君の後ろ姿に呟いた
一瞬 君はボクを見つめたけれど
不思議そうな顔をして電車を降りて行った
それがボクと君が最後に会えた瞬間だった
次の日 また次の日…
君は二度と この電車に乗る事はなかった…
君がいつも降りていたあの駅に
あれからボクは一度だけ降りた事がある
小さな駅だったけど
駅前の静かなカフェでお茶を飲んできた
窓から見える そう あの「電車」から
ふっと君が降りて来るような気がして…
Little Essay by Yasutomo Honna
0 件のコメント:
コメントを投稿