2009年8月2日日曜日

Little Essay 00037「通勤電車」






その電車にいつも君は乗っていた

毎朝 必ず決まった時間に 

そう…決まった車両に乗っていた



ボクがたまたま早起きして 

一本早い電車に乗ったのが

君を見つけたきっかけだった


次の日もボクは早起きして

その電車に乗ったんだ…

そしたら やはり君はその車両にいた



いつも君は窓の外を見つめていたけれど

何を見ていたんだろう?


君の視点に合わせて

ボクも一緒に外を見たのだが

移り行く景色以外は

変わらぬいつもの風景だった



ボクは毎日10cmづつ

君に近づいていったんだ

最初は5m位離れていたけど

最後には目と鼻の先までになっていた


でも君はこれだけ毎日顔を合わせているのに

ぜんぜんボクに気づく様子もない…




<そんなもんだね>

いつもボクはそう自分に言い聞かせていた



君が降りる駅は

今まであまり 気にもとめていない駅だった



<君はどんな仕事をしていてるの>

いつもボクは降りていく君の後ろ姿に呟いた



ある朝 君は一冊の雑誌を

食い入る様に見ていたね

目と鼻の先のボクは そっと覗き込んでみたら

就職情報誌だった


<転職するのか?>


ボクはまた降りていく君の後ろ姿に呟いた



一瞬 君はボクを見つめたけれど

不思議そうな顔をして電車を降りて行った



それがボクと君が最後に会えた瞬間だった




次の日 また次の日

君は二度と この電車に乗る事はなかった




君がいつも降りていたあの駅に

あれからボクは一度だけ降りた事がある

小さな駅だったけど

駅前の静かなカフェでお茶を飲んできた


窓から見える そう あの「電車」から

ふっと君が降りて来るような気がして




Little Essay by Yasutomo Honna





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