2009年7月5日日曜日

Little Essay 00015 「パンツ4」






実はいつもボクに電話をかけてくるパンツの女性は 

スポーツライターを名乗っていた

だからいつも取材で全国を駆け巡っている


今回の高校野球もその仕事の一貫だった



そんな彼女のパンツの話は

彼女がヨーロッパ・砂漠のレース取材の時に生まれた



スポーツライター 名前はかっこいいカタカナ職業だけど

実際はまだまだ売れない職業の一つだ

自費で全世界を駆け回り 

そして原稿を新幹線のスピードで書き上げる


リアルタイムの時代だから 

その原稿が嵐のごとく世界を飛び交う

一歩間違えると 一分でもタイミングがズレルと 

書き上げた原稿はただの紙切れに変わるし

一度失敗するとなかなか次の仕事にありつけなかい



当然 彼女もあまり金がなかった


ヨーロッパ取材も行きの航空運賃だけをかき集め

そして日本を飛び立って行った



「帰って来れないかもしれないね

そう彼女は成田からボクに電話をかけてきたんだ



「金はあるのか?」

ボクは仕事を終えた一時のビールを

静かに楽しみながら聞いてみた…



「うぅん 行きのチケットで 残りはほとんどないの

彼女はそう続けた


「大丈夫 エイズにだけはなってこないから!」

受話器の向こうで いつもの彼女の笑い声が聞こえた

しかしその笑いはいつもの軽快さに欠けていた



「成功を祈るよ まぁ 病気にだけは気をつけて

ボクは仕方なく彼女に続けて笑った




1カ月が過ぎようとしたある日

ボクのポストに一通のエアメールが届いていた

彼女からのポストカードだった



<元気?私も バンバン頑張ってま~す!

 と 言いたいけど 実際はもぅた~いへん

 選手達と一緒に 砂まみれの生活を送っています


 当然洗濯なんか出来ないし

 女性には砂漠でのトイレも悲しいですね


 あぁ そうそう  グッドニュース

 パンツの便利な利用法が見つかりました

 今度 日本に帰国したら その件で連絡しますね


 でも 本当は 一日でも早く日本に帰りたい

 再び 日本の地に帰れる事を祈っています>



そう書かれたエアメールは ちょっと長旅の疲れか

シワクチャになっていた



彼女のパンツの話は そこから始まっていた


ボクは暫く そのエアメールを壁に張り付けていたけれど

彼女の無事帰国の連絡と共に 手紙収納箱にしまった




日本に戻る飛行機の中で

初めて彼女は涙を流したと言う

絶対 泣くもんか! と誓っていた涙腺が

急に緩んでしまったと言う





彼女が持参したパンツは 

リックサックに3枚だけだった


ボロボロになったパンツと共に帰国した彼女は

以前に増し逞しくなっていた




Little Essay by Yasutomo Honna



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