2009年7月10日金曜日

Little Essay 00021 「一杯のスカッチ 」






時折 思い出すのは

何も考えないで 

ひたすら飲んで 時間を過ごしていた頃のこと


酒の銘柄もウンチクも 何もない

ただ飲んで楽しめていた頃のこと


それが安酒であろうが 無名酒であろうが

側に気のあった友がいて

つかみきれない未来を語り

落しどころのない討論をし

そして 恋愛に悩む

そんな日々が楽しかった



いつしか 何人かの友は

カラオケという道に走り

何人かの友は結婚して

外へ足を向けなくなって行った


恋愛に悩んだ友は

女性のいる酒場に逃げ

極度に飲みすぎた友は

医者と友達になっていった




小さなカウンターバーに座って

バーマスに旨い酒を尋ねてみる

十数年もののスカッチを

すすめられるがまま

飲んでみる



しかし

何も考えないと思えば思うほど

過ぎ去った過去が

走馬燈のように流れては消え

消えては流れていく



喧嘩した友の怒った顔

初めて任された仕事でミスった夜

好きになった女性を 初めてデートに誘えた日

ウソをまたウソで固めなければならなかった

切ない…言い訳



グラスの中の琥珀色の液体と

遠く懐かしい思い出は

妙に相性がいいらしい



<酒と思い出>がだぶってきたら

それはいい年齢になってきた証拠

と 何処かで誰かから聞いたことがあるけれど

自分がいざ体験してみると

なるほど…

まさしくそうなのかも知れないと思ってしまう




一杯で終わるつもりが

二杯 三杯となってしまうのは

思い出の続きを見たいがためなのかもしれない



青春と呼ばれたあの頃は

もう二度とは戻って来ないけれど

いつでもあの頃を思い返す方法を

この年齢になってやっと手に入れることができた


小さなグラス一杯のスカッチと

数十秒間目をつむることによって




Little Essay by Yasutomo Honna

0 件のコメント: