2009年7月26日日曜日

Little Essay 00033「使い捨てライター」






使い捨てライターの火がつかなくなった


何度かに一度 

小さな炎がかろうじて灯るのだが

それもつかの間…

タバコに火をつける程の余力は残っていない



ライターの側面には

いつかキミと行った

開店したてのバーの店名が印刷されている


もう記憶に薄れる頃の出来事だが

あの頃 ボクたちはとてもハッピーだった


一緒にいることが 何よりだった

つまらないジョークにも 

お互い笑い転げていたし

互いをむさぼるようにベットにいた

いつか来るはずの 

二人の永遠の時間を夢見ていた


しかし 旨い同じ食事を食べ続ける度に

ボクたちは 別な食事を欲するようになる

例えば ソースから醤油へ 中華からエスニックへ


たった数年程の間に 

その亀裂は少しずつ広がり

いつか… 

手を伸ばしても届かない距離となっていた




そう 使い捨てイターのガスが

減りつつある感覚と似ている




貯えられた「余力」に底が尽き

愛しあう感覚や

ましてや互いを思いやる心なんてものは

残念ながら 微塵も無くなっていた


もはや お互いの中で

気にもしない

空気になってしまったのかも知れない…



「ある」ことに 「いる」ことに

慣れ過ぎてしまったのかも知れない




使い捨てライターの火がつかなくなった


もう既に タバコに火をつける程の余力がない


たった一瞬だけ 

小さな炎が数センチ程伸び上がった


そして…二度とその主張を 

灯さなくなってしまった




さようなら さようなら




Little Essay by Yasutomo Honna



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